経済学の研究は、個人が孤立して行うものではありません。自らの研究を進めるためには、広く様々な研究を知ることと同時に自らの研究を公表することが重要になります。神戸大学大学院経済学研究科の大学院生は、学内で開かれる様々な研究会・ワークショップや日本各地や海外で開かれる学会で積極的に研究成果を報告し、多くの学術雑誌への投稿を通して教員とともに、日本における経済学研究の重要な拠点である神戸大学大学院経済学研究科の研究活動を支えています。
ワークショップからの知的刺激
経済学の各分野の国内外の著名な研究者を招き、その最先端の研究を聴く場、大学院生の研究を報告する場として経済学研究科が設けている研究会が、六甲フォーラムです。六甲フォーラムは、定期的に行われる定期六甲フォーラムと、不定期に行われるその他の六甲フォーラムがあり、これらを合わせて毎週のように開催されています。
この他、ミクロ経済理論、ゲーム理論を中心とする研究会である六甲台セオリーセミナーや、マクロ経済学を中心とする研究会である六甲台マクロセミナーなど、教員が自主的に運営する各自の研究会が存在しています。また、1963年に発足し、フリードマンやハイエク、ルーカスなど著名な研究者も報告したこともある金融にかかわる包括的な研究会である神戸大学金融研究会は、2013 年11 月で開催が500 回を超えるなど、学会といっても良い規模と伝統を誇っています。
さらに、これらとは別に博士後期課程学生向けに六甲フォーラム模擬報告シリーズが運営され、大学院生の研究計画に対するフィードバックや発表の仕方などに対するコメントなど、研究力やコミュニケーション能力を養うための場所として運営されています。
研究成果の公表(論文、学会報告)
大学院に進学すると、研究者として学術雑誌への投稿、学会報告により自らの研究成果を公表することが必要になります。そこで、経済学研究科では、論文作成にあたってのコメントを求めることなどを目的としてワーキングペーパーを刊行しており、大学院生もこれを利用して研究を公表することができるようにしています。さらに、英語論文を海外の専門誌に投稿する場合、英文校閲への援助や、論文が査読付雑誌に掲載された場合には、六甲台研究奨励賞を授与するなどの制度があります。
データベースの宝庫
大学院の実証研究では、良質なデータを適切な手法を用いて分析することが求められます。経済学研究科と経済経営研究所が共同で運営している神戸大学ミクロデータセンター(KUMiC)は、独立行政法人統計センターの西日本で最初のサテライト機関として、国の統計の「匿名データ」の提供事務を行うほか、ミクロデータのオンサイト利用の施設の整備やミクロデータに関するセミナーの開催などにより、研究者の実証研究をサポートしています。
学術誌の刊行を通じた貢献
本研究科の教員が全員所属する神戸大学経済経営学会編集の『国民経済雑誌』(月刊)は、1906 年(明治 39 年)に創刊された日本最初の経済学雑誌であり、日本有数の経済学の月刊誌として、数多くの優れた論文を掲載してきました。最近では、学外の執筆者を交えた特定のテーマに関する特集号も随時刊行されています。
また、ディスカッションペーパー(英文および和文)も活発に作成されており、関連分野の専門家から広くコメントを求めるなど、研究交流の場として役立っています。それらは神戸大学学術成果リポジトリおよび本研究科ホームページで公開されています。
多彩な学会活動を通じた貢献
本研究科は歴史と伝統に裏打ちされた、日本における経済学研究の拠点の一つです。教員は、日本経済学会や日本経済政策学会、日本国際経済学会、日本金融学会、社会経済史学会、経営史学会、日本統計学会といった主要な学会だけでなく、専門分野に応じた多様な学会に所属し、プログラム委員会のメンバーや座長、討論者など学会の核となる役割を果たしています。
また近年では、日本経済政策学会やアジア政経学会、日本国際経済学会、日本人口学会、経済社会学会、日本包装学会の会長を輩出し、様々な学会で役員や会誌編集委員を務めるなど、経済学関係の諸学会の発展に大きく貢献しています。
活動は学外へも広がって
2018 年 12 月から2年間、姫路市夢前町山ノ内地区において、全国初の「加点式健診事業」(通称:よいとこ健診)を始動しました。「加点式健診事業」とは、学生・大学院生をはじめ、誰でも実施可能な「総合的な健康診断」です。この研究事業は、本学医学部、他大学との共同研究事業です。神戸大学の各学部の他、甲南女子大学、兵庫教育大学、立命館大学の教員、学生、大学院生が参加しています。さらに、姫路市保健所、夢前地域包括支援センターと夢前地域の連合自治会との連携を図っています。
学生参加者は、受診者と面談しながら、診断の結果をもとに「よいところ」を探し「ほめて、ほめて、ほめまくります」。健康づくりへのモチベーションを高めることが目的です。学生参加者は、「よいとこ健診のフィードバック」を通じて、地域生活の実態を学びながら、いろいろな人とのコミュニケーション能力を磨くことができます。
地域社会にとっては(1)健康診断の受診率の向上、(2)長期的な医療・介護費用の節減が期待できます。2019 年から(3) ICT を活用して「よいとこ健診」の全国的普及を目指しています。なお、本研究事業は、「『夢前花街道事業』と『加点式健診事業』の連携による地域活性化実践研究」として、ニッセイ財団の研究助成を受けています(研究代表:経済学部 藤岡秀英教授、副代表:医学部 岡山雅信教授)。